「海街diary」番外編 感想 フラワーズ2018年11月号

「海街diary」番外編 感想 フラワーズ2018年11月号


最終回から三ヶ月、待望の番外編……なんですが、27ページと短めでした。カラー表紙付きで、掲載順は四番目。
「BANANAFISH」の月龍役の声優さんのインタビューが載ってたんですが、原作を読み込んでいらして読み応えありました。
──絵もセリフもぎりぎりまで削ぎ落とされていて、映画的なスタイリッシュな表現なのに、実際は画面から受ける情報量がすごい。
これはほんとに、海街でも説明的な台詞は多いんですが、それが会話としてちゃんと成り立っているし、文字数はほんとギリギリまで削ってなおかつちゃんと意味が取れるようになっているんですよ! 吉田先生すごいです。
「BANANAFISH」もあと少しですね。職場にもハマってる人が何人かいて、中には原作未読の人もいるので最終回が楽しみなような怖いような……と脱線しましたが。今回の番外編は「光の庭」方式でした。
以下ネタバレありの感想です。
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海街diary 番外編 「通り雨のあとに」

表紙は見知らぬ男の子四人と自転車の女の子! 山の中の川……何これ⁈ と思ったら「温泉街・河鹿沢。そこで暮らすとある“家族”──」とアオリが入っていて、あれ? もしかしてすずが昔いたところ? とびっくり。
馴染みのない第三のキャラクターが今までの登場人物の現在について語っていく番外編でした。最初はちょっとがっかりでしたが、長く複雑な物語の番外編となるとこれが一番スマートな形なのかも?

「あの金盗ったのおまえだろ! とぼけるな!」
と、スマホに怒鳴る少年。季節は夏。うるさいほどの蝉の鳴き声──。
少年は一時期家族としてすずと暮らした、義母陽子の連れ子・和樹です。
和樹が頭を下げています。弟の智樹がお布施を盗んだ。俺が金の無心を突っぱねたから。本人は頑として認めようとしないが状況からして間違いない。申し訳ありません、お布施は俺が必ずお返しします。
住職はもう背が縮んで小さくなったおばあさん。金のことはもうええ。仏さんもせっぱつまった者は大目に見てくださる、人助けも寺の役目の一つ。そう言ってこの一件を終わらせてくれます。
和樹はまだどう見ても少年です。その弟となると成人しているかどうか……「せっぱつまった者」は兄弟両方を指しているのでしょうか。
住職が「浅野さんの娘さん」を迎えに行く時間じゃないのか? と言い、和樹がはいとこたえるやりとりで、どうやらすずが登場することがわかります。すずが河鹿沢を訪れる目的──それは「墓じまい」のためだということも。
寺の外にはまだ幼い弟が待っていて、車で和樹は鉄道の駅に向かいます。
十三回忌で一つの区切りということで、四姉妹の父とすずの母が眠る墓を鎌倉に移すことにしたそうです。それで手続きのためにすずだけ先に来訪するのだと知り、複雑な思いの和樹。
「鎌倉のお姉ちゃんて昔サッカーやってた人?」
と末弟の守が。すず26歳くらいで、守は10歳。なんとなく覚えてる──とのことなので五年前くらいまではサッカー続けてた? そして今はサッカー選手ではない、ということですね。
和樹は「あづまや」──浅野のお父さんが生前働いていた旅館──のハッピ着てるな……とは思ってたんですが、すずの出迎えも旅館の仕事と兼ねているようです。
電車から降り立った男の子二人。「尾崎光道」と「浜田走馬」。走馬はランマという今風の読みなんですが、目がチカちゃんそっくりでかわいい! 二人ともサッカーをやっていて、きちんと挨拶出来るいい子なんですが、ランマが振り返り、
「おばちゃーん! こっちー!」と。
現れたのは帽子を目深にかぶった若い女性。久しぶりに会う「お姉ちゃん」に和樹の目が吸い寄せられた先で、にこやかにすずが口を開きます。
「おばちゃん言うな。おねえちゃんじゃ!」
ランマの言う「おばちゃん」は単なる続柄なんでしょうが、あのすずがその呼び方に抵抗を感じる年になるとは! 髪も伸びてセミロングに。すっかり大人の女性です。(第一話の佳乃が22歳、幸が29歳ですから)
年の近い男子三人はすぐに打ち解けて早速川遊び。それを見守りながら和樹はすずと話します。
和樹の保護者になってくれた、母の叔父である飯田さんのご夫婦。飯田さんはすでに亡くなって、奥さんは認知症で介護施設に入れたけれどもう長くないと。和樹は弱冠20歳で弟の守を育てているってことですね。
「智樹や陽子さんは元気?」
すずの問いに二人とも元気と和樹は答えますが、母の陽子は10年前に生まれたばかりの弟を預けたっきり消息不明、智樹は障害と窃盗で更生施設に入っていたが、今日電話で久しぶりに話しただけで、この先どうなるのか不明──守は写真でしか両親の顔を知らない。
(おれの家族は そういう家族だ)
いかにも好青年な和樹が内心に抱えている凄まじい葛藤が、恐ろしく淡々と綴られていきます。吉田先生の真骨頂!
子どもたちのおかげで和やかな空気の中、すずがあることに気付きます。カジカの声が聞こえないと。どうして? 蝉の声しか聞こえない。
カジカ蛙はもうこの辺にはいないんだ、と和樹。新しく作った温泉施設の影響なのかなんなのか、とにかくいつのまにかいなくなっちゃったんだ。
……と、ここからすぐ隣を流れる二本の川(詩歌川、河鹿川)の話になりまして、その「川は源流も違うし一度も合流することがない」と、ただこの河鹿沢で「近づいてまた離れて」行くのだと。
河鹿沢にカジカがいないなんて寂しいね、「なんとか生き残ってくれるといいな」ありきたりな感想を述べるすずに、和樹が切り出します。おじさんのお墓を鎌倉に移すのかと。
今も豪福寺と佳乃は仕事上の付き合いがあるということで、そこへ移すんですね。すずは和樹に墓守の礼を言い、ついでに話の流れで結婚することを「一応報告」。
和樹の方は殴ったり怒鳴ったりしない母親の男はすずの父だけだったようで、今もお父さんや「お姉ちゃん」の記憶を大事に思っているようですが、すずは意外と冷淡。まあ「なんちゃって弟」「弟だなんて思ったことない」「嫌い」とか思っていたこともはるか昔に過ぎ去って、十二年間に二、三回会ったかどうかっていう相手ですから、一定以上の熱量があったらそれこそおかしな話なのかも。
「おめでとう」
「ありがとう」
と穏やかに元兄妹が言葉を交わす横で、誰? 相手はもちろん風太? と気がはやるんですが、ここでは後から本人が来るとのすずの言葉のみ。
そしてここで制服姿の美少女登場!
自転車を押して橋を渡る姿を見つけた守が「たえ──っ!」と声をかけます。
「呼びすてすんな! 妙さんと呼べ!」
……すずとそっくりな台詞を口にして、鮮やかに笑って。
今回、帽子を被ったすずの目は一コマも描かれておらず、大人のすずの顔ははっきりわからないようになっています。それもあってすずの態度が冷淡に感じるところもあるのですが、和樹にとって気心が知れている妙との対比で効果を上げてます。
この妙ちゃんは旅館「あづまや」の女将さんの姪っ子。元気よくて気の強そうなきれいな子です。三年前に引っ越してきて、というくだりから、すずも三年前のお盆にも河鹿沢に来たっぽいですが、その時に甥っ子たちを連れて来たのかな? とにかく和樹と妙ちゃんは三年来の友人(?)のようです。
お寺さんに行ってくると言って川を上って行ったすずが、橋の上の妙と何やら会話したのが気になって、和樹も後を追います。
「あの人があんたの初恋の人か」
妙はそうからかいますが、和樹は否定して、「あの人はもうこの町には来ない」と。
「さびしい?」
とやけに腹の座った年下の女の子にきかれて、「さあ」と和樹はこたえます。
向こうにとっては自分は弟ですらなかっただろう、でも俺にとっては「お姉ちゃん」だった。
妙はその思いの底を分かち合ってくれています、ぶっきらぼうな態度で、無遠慮な言葉で。蝉時雨のやむ頃この町を出て行った姉と違って、どこにも行き場のない、ここで生きていくしかない和樹の苦さ、寂しさを。おそらく妙自身にもある寂しさに重ねて。
通り雨が来て、妙は和樹に傘を差し出し、すずを迎えに行くようにいいます。ここの二人のやり取り、一ページ丸ごとすごく良くて泣きそう。妙ちゃん男前だし、和樹めちゃくちゃ苦労してるのに全然ひねくれたところがないいい子だし、鎌倉に来たすずにたくさんの出会いがあったように和樹にもあったんだなあと。
すずと家族にはなれなかったけれど、和樹にとっていわゆる「普通の」家庭があったのはあの短い間だけ。その時だけが和樹の子ども時代だった。
通り雨のあとにはきっと青空が広がる。それを示唆しながらも、雨が降り止まないまま物語は終わります。すずは出て行くことを、和樹は留まることをそれぞれ選んだのです。自分の人生を誠実に生きることを。
二人がほんの短い間だけ並んで歩く、蝉の声もない静かなラストシーンです。

最後にすずの結婚相手の話題が出て誰だかわかるのでほっと一安心。まあ光道くん連れて来てる時点で他に誰が?って感じなんですが。
海街の番外編としてはものすごい微妙と思って読み始めたんですが、妙ちゃんに全て持っていかれた感がw 和樹は守と妙ちゃんがいて良かったねえと。
それにしても青春の閉塞感や寂しさを描かせたら右に出る人はいないのではというこの空気感。ページ少ないと思ってたのに中身が濃い! 好短編でした。
柱で先生が「しばらくお休みしまーす。テニスとカヤック三昧」ですとー!!ああ新作が読みたい……。
吉田先生は本当にクレバーな方なのだとつくづく思います。

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