「とりかえ・ばや」episode.52 大祓
夏越大祓の一連の行事が始まりました。
すっと背筋の伸びた白装束の帝と東宮、どちらも神々しいまでにお美しい……。厳かに粛々と儀式が進んで行く裏で、それぞれ人の思いが交錯するのも面白いです。
「ご立派なお姿……」
朱雀門の最後のお務めを見ることは叶いませんが……と、三の姫に声をかける沙羅は、首尾よくことが運ぶかという不安と、お仕えしていた東宮の晴れ姿の立派さに胸が詰まるような気持ちでしょう。
「お任せあれ」
睡蓮の尚侍の分までしっかりお供して参ります、とこちらも美しい装束でにこやかに頭を下げる三の姫は、慌しさに今だけは寂しさを忘れて、女主人への誇らしさで一杯なことでしょう。
尚侍は朱雀門へ行かないのですか?
東宮の後継についてあれこれ噂の種になりたくありませんので。
じゃあ私も行かない方がいいですか?
そうですねーー
帝の言い付けを守って安全な場所に留まる沙羅と、自分で考えて結果的に最善の道を選ぶ弓弦親王の会話、本当に仲の良い姉弟みたいでこの一コマかわいい。
式部卿の宮も主上に呼び出されて朱雀門には行かないようですよ、さあ親王はこちらへ。そう促す沙羅が大人っぽくてきれいで素敵です。
宮をお召しになった主上。宮がありきたりの祝辞を述べるのに、厳しい態度でのぞみます。
まだけがれは祓われておらぬ、近うよれ。
「東宮退位の後、由々しきこと起こらぬよう、我らは心を合わせねばならぬ」
主上の言葉に全てを悟って険しい顔つきになるものの、多分瞬時の判断で、自分に不利な要素は切り捨てることに決めたのでしょうね、皇族の一員としてこれまで通り生きて行くために。
この時の表情からして、銀覚の不穏な計画に加担していたのは間違いなさそうです。そして発覚した場合には我が身の保身を決め込むつもりだったことも。
でも宮には宮の野心や現状への不満など複雑な思いがあったんでしょう……いつも飄々とした宮が、俯いて帝の訓戒を聞いているこの表情のやり切れなさがすごい。
さて朱雀門前はすごい人です。
ここで祓物を神々にさし出し、祝詞を奏上し、すべて川に流し祓い清めるのです。
列席する銀覚の耳にひそやかな噂話が届きます。
祓物の中に呪いをかけられた鬼の骸骨がある、と。
主上、東宮、朱雀院の人形も……。
鞍馬から盗まれたと文が来ていたあれが、なぜここに?戦慄する銀覚ですが、儀式に参列しているため身動きが取れません。
そしてついに東宮による祝詞の奏上が始まります。
東宮様が?とざわつく民衆の描写があるので、滅多にないことなんですね、きっと。
ここまで来たら三の姫も手を合わせて祈るのみ。
「通してくれぬか?」と断って席を立つ銀覚の描写を挟んで、震えながらふうっと息をついて覚悟を決める東宮。外野の描写で3コマ、東宮の顔のアップで3コマ使って、その下の大ゴマで祝詞が始まる……さいとう先生はほんとコマの使い方が上手いな〜絵で心理描写を見せてるな〜と感心してしまいます。まんがの醍醐味。
祝詞の内容と連動して、「あらゆる罪が祓い清められよう」のところでこっそり抜け出そうとした銀覚は、進路を塞ぐように立ちはだかった男にぶつかります。
それはもちろん吉野の宮!
やましいことがあるのか? ここを出たいのか?
そう促されて移動した先で、槍を構えた兵士に囲まれ、八方塞がりを悟る銀覚。
「主上 直々の命により、そなたは流罪となりこれより遠い離島へと流される。命ある限りもう二度と都の地は踏めぬ」
輿に押し込められた銀覚は最後の抵抗を試みます。
弓弦親王と式部卿の宮も同罪だ!高貴なお方をもこのように秘密裡に裁くのか?
「公のお裁きはない!」
冷たく言い放つ吉野の宮。謀反の証がある以上、命を取られぬだけでも帝の温情をありがたく思し召せ。
私にはまだ切り札がある、良いのか?と銀覚は往生際悪く宮を挑発します。
主上の最愛の睡蓮の尚侍の秘密ーー左大臣家が丸ごと失脚する重大事!
「尚侍はかつての右大将であり、今の右大将はかつての睡蓮の尚侍なのだ!つまり兄と妹が入れ替わり、一族で主上と宮中を謀っていたのだ」
息も荒くそう言い放った銀覚ですが、「証はあるのか?」と宮に冷静に受け流されてしまいます。
「確信したのだ、私は……」
……事情を知っている宮だからこんな反応ですが、むしろ何も知らない人ならついにオカシクなったかと言われてもしょうがない……な、これ。銀覚よあわれ……。
こちらにはお前が主上を呪った証拠がある、すべて終わりだ、と不敵に笑う吉野の宮カッコいい。
運ばれて行く輿を、長年の宿敵を晴れやかに見送る宮に祝詞がかぶさり、すべてのけがれが祓われました。
民衆から感嘆の声があがります。見事な祝詞だった、女神のようでありがたくて涙が出た……と。
日暮れの天幕の中、睦まじく語らう二人の乙女の元に、吉野の宮が姿を見せます。
晴れやかに微笑む東宮と、恥じらいに頬を染める三の姫。
「謀反の者は去らせましたぞ。ご安心召されませ」と優しく告げる宮。
今までずっと、内裏にはいらっしゃらなくても、どこかで見守られているような心地でした。こうして最後の日も宮様に守られ……思うに宮様の不思議な予言に導かれて今日まで務められた気がします。
「わしは……いつも東宮らしくあったであろうか?」
重圧や妨害に耐え最後まで意志を貫き通した芯の強さに、その小さな体に秘められた気高さに、安堵と少しばかりの寂しさに……胸がつまり、涙をこぼす吉野の宮。東宮のひたいに思わず触れた手にも、東宮のあどけない顔にも、こらえきれない涙の雫が落ちます。
「ご無礼を……!……まことーー天照大御神が降臨したかの如き見事さでした!」
自分で戒めるように拳を握り、涙をこらえて笑顔をみせる宮に、「よかった」と東宮も破顔します。
そして最後の2ページで驚きの展開が!
なんと、私はもう東宮ではない、ただの「人」となった、とさばさばと言い出した東宮は、
「これで鞍馬山にあの方を探しに行くこともできる!」
なんですと⁈ きらきらのスクリーントーンとか貼ってありますけど、何言っちゃってるの?お姫様!
「一刻も待てぬ!」
助けに行かねば。わしが来るのを待っている気がする←恋する乙女の思い込みすごい。
宮様でももうわしを止められぬ〜♪と暴走する、見た目はお人形のように可愛い自称「ただの女子」に乗せられて、私がお供します!とつい言ってしまった吉野の宮、でも内心は結構嬉しいんじゃないでしょうか?
「我が身もお連れください!」
昔は野山を駆け回り猿とよばれてたんですから!足手まといにはなりませんから!と鼻息荒く?乗っかってくる三の姫。
「うむ。わかった」←全然わかってない。常識とか軽く飛び越えてる。いい笑顔。
では宮様と猿を道連れに右大将を取り戻しに行こう!
……というどこの少年まんがだ的なことになっちゃって、もう東宮(元)の可愛さに言葉もないっていうか、このこと知った時に睡蓮の理性が崩壊して元々東宮様にめろめろなのにこれ以上もうどうなっちゃうんだろうっていう。
吉野の宮と行動を共に出来ることが、ちょっぴり嬉しそうな三の姫もかわいい。
すごい……オリジナル展開の破壊力すごい!1ヶ月も待つとかひどい。゚(゚´Д`゚)゚。