「七つ屋志のぶの宝石匣」1巻 二ノ宮知子 感想

七つ屋志のぶの宝石匣(1) (KC KISS)

月刊「kiss」で不定期連載中のこの作品、面白いって噂には聞いてましたが、待望の1巻です!
「のだめ」の二ノ宮知子の最新作、「七つ屋志のぶの宝石匣」講談社kissコミックスです。普通の新書サイズで、何気なく買ったけど手書きペーパー入りでした。
この表紙、すっきりしていてすごくいいなあと思い、装丁の「良いコミック」様で調べたら、空間を上手に使われるデザイン事務所なんですね。フォントも素敵だし。
背表紙も、バーコードが本を包むビニールにシールで貼ってあるため、カバー自体にはなく、スッキリです。まんがの世界にも少しずつ変化が訪れているんですね。

以下ネタバレしてます。
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内容はもう、面白かったの一言!
「のだめ」を彷彿とさせるキャラたちが…。表紙からして千秋様だし、と思って読み始めたのですが…。
舞台は閉店間際の質屋。
買い取り内容でもめている、かなりいい年の店主とその息子、という地味なオープニング。
そこへ品の良い着物姿のご婦人が、孫くらいの年の男の子と二人でやってきて、
「この子を質に入れたいのですけど」
つかみがうまーい!!
質草としたい期間はなんと3年。
利害が一致して、引き受ける気になった店主も、期限がすぎればうちの孫娘と婚約させますよ!と、狸と狐の化かし合いみたいになって。
どんな深い事情があればこんな非常識なことに?って、わくわくする滑り出しです。
そこから一気に話が現在に移り、質入れされた少年、北上顕定は人目を惹く美青年に成長して、フランスに本店がある老舗ジュエリー店で働いています。お金持ちの女性相手の外商では、かなりの成績を上げているようで、周りから一目置かれています。
対するヒロインJK志のぶちゃんは、実家の質屋で主に宝石の買い取りをまかされていて、その知識たるや超高校生級!そして宝石に「気」とか感じちゃう不思議少女でもあり。
理詰めの顕定を、勘で志のぶが圧倒する展開は、既視感がありますが、有無を言わせぬ面白さです。

なんというか、第一話に謎や人物紹介や宝石のうんちくなど読者の興味を引くものが全部きれいに詰まっていてすごいです。
志のぶの祖父と顕定の祖母のやりとりも、本当に切羽詰まると人間って思いもよらぬ事をしてしまうなーって、突飛な設定を自然に受け入れられるように描かれてるし。
顕定は自分のルーツを探すために宝石店で働いていて、志のぶのように宝石に愛はないものの、人間と違って裏切らないものだと思っている。
「顕ちゃん、ごはんまだでしょ~?何か作ってよ」と志のぶの母に言われていることから、見た目よし頭よし仕事も優秀、さらに料理も出来るという、完璧だけれど押しの強い女性に弱いところが、中身も千秋に似てますね。
志のぶちゃんは黒髪であんこ派で剣道部で、彼氏なしの女子高生で、のだめほど破天荒ではなく、見ていて和んでしまう可愛さです。
お金持ちの世界を宝石店で、当座を凌ぐことしか考えられない庶民の世界を質屋で。2つの世界を一本の作品で見れるのでお得感がありますね。
どっちのうんちくもほんと面白い!
志のぶに助けられた顕定が、好物のうえの屋の豆大福をわざわざ買ってきたのに、ぞんざいに渡して目も合わせずに立ち去るという様式美に、
「彼はうちの店の質流れ品なのです」というナレーション。締めも完璧です。
普段まんがを読まない人にも安心して進められる面白さです。

2話も笑えて最後にほろりと。「顕ちゃんにはわたしの知らない顔がいっぱいある」って言っている志のぶですが、彼が心の奥に閉まっている気持ちを知っているのは、間違いなく志のぶだけのようです。
「いい加減わたしにひれ伏しなよ」
「婚約者だからいいよ」などの名言も出ましたね。
もうこの二人のやりとり読んでて楽しい!

3話では志のぶちゃんも今どきの女子高生…?そんな劇的に変化した…?とツッコミつつ、年頃の姉妹と宝石が絡んで、華やかなお話。一話から出ていたお姉様、多面性があって面白い良いキャラですね。妹の摂子ちゃんも典型的な箱入り娘で素直ないい子。この二人はレギュラーなんですかね。そして顕ちゃんにさらなる謎が。

4話は顕ちゃんのお仲間、とっても裏の有りそうなジュエリーデザイナーの久世鷹臣が登場です。なにやらホリーパワーを持つ人物?なんですが、本人はそのことに気付いてなくて、逆に志のぶの持つ不思議な力、宝石の正負のオーラを見分けられる力を何かに利用出来ないかと考えている。そうなるのがわかってたから、鷹臣には今まで志のぶの存在を隠してたのにと頭を抱える顕定ですが……。
読者の不安をこれでもかと煽っておいて、「何かに利用出来ないかな?」って鷹臣で何か出来るんじゃないかと、同じように野望を膨らます、ちょっと黒い志のぶちゃん……いいよいいよ〜そう来なくちゃ!
先が楽しみです。

歴史にその名を残す名家・北上家の嫡男を、金で他家に置き去りにする……人生が狂って、一生愛を求めるさまよい人となってもおかしくない設定なのに、からっとした作風で、むしろおいしい設定になってます。思いっきり可哀想萌えできます。
あとがきで先生がジュエリースクールに通われたお話が載っていました。カバー見返しにはもちろんカラーでお話に登場した宝石リストも!
なんとも充実の1巻でした。

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