まんがのクリスマス④ 「草迷宮・草空間」

まんがのクリスマス④ 「草迷宮・草空間」

内田善美さんについて、同じ「ぶ〜け」出身の作家の松苗あけみさんが「今でいう神絵師」と言われてて、なるほど!と思いました。初めて読んだのが「星の時計のLiddell」で、リデルの登場シーンの美しさは衝撃でした。もちろん松苗あけみ先生の絵もきれいだし、なんといっても華やかで好きです。「HUSH!」とか、ストーリーはシビアでシニカルなギャップが面白いんですよね。「ぶ~け」は珍しい感じの作品が多くて好きでした。三岸せいこさんの「夢見る星に降る雨は」や笈川かおるさんなど。
A5版のハードカバーで出版されたこの本、定価は880円でした。家にあるのは1986年の8刷です。1985年3月から一年と三ヶ月で8刷。人気絵師さんだったんですね。
「草迷宮」が81年、「草空間」が84年と間があいているため、この二作絵がかなり変わってます。もちろん「草空間」が格段に綺麗! この間に「星の時計のLiddell」を連載されていたんですね。内容にも似通った部分があります。
「草空間」が巻頭に載ったぶ〜けセレクションはたしかB5版の普通のコミック誌サイズで、110ページを一括掲載でした。今にして思うとすごいですね。
以下ネタバレありの感想です。

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草食系男子・その名も「草(そう)」が道に捨てられていた市松人形を仕方なく拾ったら、猫なのか小さい女の子なのか本当に人形なのかの境界が次第に曖昧になっていくお話。
内田先生のあとがきによると「ちょっとナニでこわ〜い話」だそうですが、ほのぼの日常系ファンタジー、バブル期の気楽な大学生の青春ものとしても読めます。
主人公の草、親友の時雨(ときふる←素敵な名前!)、漫画家のアシスタントやってる先輩の小次郎さん、みんな個性的でかわいくてかっこいい。そして草のGFの「あけみちゃん」が文句なしにかわいい完璧女子。

「あけみちゃんてさ、女の子の群れの中にいてもさ、「あれ、女の子がいる!」ってさ。「いいな」って思えちゃうんだよな。男と二人っきりペア組んであんなにイケルなんて、俺、知らなかったな」
「あの子さ、“かわいい”とこしかみせないんだよな。それもパーフェクトに自然でさ。だからかわいいのかな。それでまずいことに俺は、あの子のかわいいとこしか知らないんだぜ。たーったそこだけ」

どうにもこうにも「人間に対する感情が淡白」な草。あけみちゃんをかわいいとは思っても、「どっかわかんないとこまであったかくなっちまう」とはいかないようで。

“あけみちゃんは頭がいいな、人間として”
“おおさ、頭がいい上にちゃんと「女の子」をやってる。こーんなかーいい女がそーいるか?”

と、草とあけみちゃんの仲が進展しそうでしないのにやきもきする時雨くん。なんでそこまで親友の恋路を気にするのかといいますと、「Liddell」でも描かれたように、どうにも捉えどころのない親友を現世に繋ぎ止めてくれる何かが必要だと感じて不安だからなのかも?

そして「ねこ」は文句なしに可愛い。


草以外の人の前でもいつのまにかまるで人間のように動き回ってます。電話に出たり、甘えて駄々こねてハンストしたり、なぜなぜと草を質問責めにしたりとまったくただの可愛い幼女。
クリスマスが近いある日、草とケンカして禁止されていた商店街へ一人で乗り込んでいきます。好奇心いっぱいに色々見て回るねこを、声をかけずに少し離れて見守る草。
お人形屋さんを見つけたねこは扉を開けて中に入っていき、「人間のことよりも人形にくわしい」と言った老ご店主に「あたしいくつ?」と尋ねて、人形に自分の歳を訊かれたのは初めてだと苦笑いされ……。


そして外へ出ると空から降ってくる雪に「魂が降ってきたよ」とねこ。
人間の意識とか魂と呼ばれているものってなんだろう。生まれてきてあったかいのに人間と人形は違うものなの? 答えのない問いは雪のように儚く消えます。

「人間って不思議ね。こんな小さな身体の中に無数の時間、無数の空間をもってしまえる。でも、誰にもわけてあげられない。ほんとうのところは誰にもわけてあげられないのね」
デートしている間も、ともすれば一人で思いにふけってしまう草をあけみちゃんは責めることなくそういう草と一緒にいることも楽しんでくれていますが……。

  誰にも語りきれない色…
  誰にも分かちきれない空間(おもい)…

人間はその寂しくて悲しいところが美しいのでしょうか。だから分け合っているという感覚
が貴重で、若い時には特に重要なんでしょうね。

草とあけみちゃんは恋人同士になるのかな? それとも……と続きを待っていたのですが、ついに続編はありませんでしたね。とても残念です。

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