アニメージュコミックスワイド版(「ナウシカ」もこのレーベルで出てました。「アニメージュ」はまだ現存のようで何より)、1989〜1992年にかけて刊行され、定価なんと360円!
普段ちゃおとかなかよし読んでるムスメが夢中になって読んでくれて嬉しい。感無量です。草ちゃんがいいんだよね〜と言い合える日が来るとは。
いかんせん2004年のコミック文庫と比べると日焼けがすごい。でもどうしても大きい版を処分する気になれなくて……紙質の悪さまでもがレトロタッチな内容に合っていて、表2・表3に初期デザイン画が載っているのも嬉しかった。ふくやま先生の絵が大好きなので。
結構長いお話で、1話完結のほのぼのミステリーと並行して、不老長寿・人体実験・お家騒動というメインストーリーが展開されているので名場面がいっぱいあるんですが……。
第十一話「北から来た青年」で、なりたてで一回も成功したことのない間抜けな置き引き二人組が、縁日の混雑を歩きながら交わす会話。
「うれしそうだな周平」
「だってアニキ。こんだけ人がいてもトランクのなかにどんないいもんが入ってるか知ってんのは、おれたちだけでしょ!!
あそこで熊手を選んでる女の子やおっさんは幸せそうだ。
きっと家にはおれたちの知らない いいもんが待ってるんでしょう。
そんなのがいつも おれうらやましかった。
でも今日はみんなと同じだ……」
ここで言うトランクは置き引きしたもので、中身はなんと印刷前の原稿! かの宮沢賢治氏が原稿の持ち込みに来たという設定なのです。引用されているのは「なめとこ山の熊」。おっかさんと子熊のくだりでおんおん泣いて改心してしまう小悪党たちがこっそり原稿を返そうと奮闘しますが……。
どんな苦境に立たされても生きている限り、心がある限り、きっと自分だけの宝物を見つけて幸福になれる。それを誰もが使う言葉だけで可能にするところが物語の素晴らしさ。それに絵が付くとまた最強にすごいんですが!
お気に入りのキャラクターはもちろん草ちゃんで、当時からビターテイストのフミちゃんとの恋に痺れたものです。瞳子さまへの公邦、美也子への三郎の盲目的な愛情にもときめきました。もちろんW主人公の平介も大好き。
第十六話の「湖畔亭幻想譚」が特に好きで、よく寝る前に読み返して幸福な気分に浸ってました。クズ湯を飲むひわ子ちゃんの可愛さといったら! ふくやま先生にしか描けません。平介が黙って庭に出て指輪を探す一連のシーンもほんと大好き!この相談のどこに平介が必要なのかな? と思ってるところに新聞広告という言葉が出て来てははあとなるんですが、平介と読者にはもう指輪の在り処が見当がついている……動と静の対比もすごく良いです。
※他所様のサイトで拝見したんですが、女の子はひわ子なのに実はメジロというのは確かにヘンですねw! ヒワでいいのに。
昭和初期を舞台にしたファンタジー活劇なので今読んでもまったく色褪せない。絵も特に3巻以降のこの時のふくやま先生の絵がすごくいいのです。
草ちゃんはお蕎麦屋さんの看板娘フミちゃんのことがすごくすごく好きで、フミちゃんより可愛い子なんていませんよ、と親友の平介に断言するくらいです。フミちゃんより美少女はいっぱいいるのに……? と思ったところで第十話で明かされる二人の出会い。
「元気ないのね、どうしたの?
あのね うち、すぐそこのおそば屋なのよ。
食べていかない?
入ってらっしゃいな」
雪の中、川べりに佇む異国の服を来たどうみても普通じゃない男に、和傘をさして風呂敷包みを抱いて習い事の帰り道なんだろうお下げ髪のお嬢さんがそう声をかけてくれたのです。
周囲の人々に愛されて、なんの不安もなくきちんとした暮らしを営んで、人に親切にすることが息をするくらい自然で、勇気のあるやさしいお嬢さん。
草ちゃんは一語も発しませんが、どんなにかその笑顔に心を打たれ救われたか、そりゃあフミちゃんより可愛い子なんているわけないよね……と読者も納得。
二人は境遇の違いから一緒になることはないんでしょうが、最後までそこがぼかされてるのがありがたいですね。ハッキリしなくてもやもやするという向きもあるでしょうが……。
とにかく戦前の風俗がよく描き込まれていて楽しい、味わい深い作品です。
私の百合好きも実は(というほどのことでもないですが)、ふくやま先生の「ひなぎく純真女学園」からなのです。