まんがの名言・名場面⑥ 「マダムとミスター」遠藤淑子

まんがの名言・名場面⑥ 「マダムとミスター」遠藤淑子

絵が「……」な少女漫画家さんで、話が面白くて愛されている代表のような方が遠藤淑子先生でしょうか。すごい失礼な紹介から入ってしまいましたが、まんがは絵とストーリーが切り離せないものなので、やはり面白いストーリーを作れる人が原作者になればいいとかそういうものじゃないですよね!
大好きな西森博之先生や施川ユウキ先生が原作を書かれたまんがより、ご本人が描かれたものがやはり読みやすいし面白いと思います。

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「マダムとミスター」は「花とゆめ」で1993年から不定期連載されていた作品で、年頃も容姿も性格も合いそうな男女が出てくるんですが、二人の間にお互いに対する好意と敬意以上のものが生まれるのかどうかわからない感じで、日常が続く感じに終わっているんだと思うんですがよく知らなくてすみません。
その後やはり不定期連載の「狼には気をつけて」の方はWikiによると文庫で登場人物のその後がわかるみたいです。
読者の思い入れが強い男女ペアが恋仲にならず、それでも相手はかけがえのない人である風な作風だからメジャー感がないんでしょうか。読者の期待を裏切るってことで。
でもすごく面白いんです。特に登場人物の掛け合いが。Wikiに「ウィットに富んだ作風」ってありますね。セリフとモノローグが特に良くて、時々説教くさく感じることもありましたが、特に家族を題材にしたものでは笑って泣けます。

「お前……ただのガキじゃねえな」
「もちろんよ。大金持ちでこのかわいらしさ。この先何百人の男が私にまとわりついて来るのかと思うと今からうんざりするわ」
「そりゃ大変だ、お嬢様」
「アレクでいいわ」
「男の子みたいだぞ」
「いいのよ。パパがこう呼ぶんだから」
「へー ファザコンなんだ」
「そうよ。パーフェクトだと嫌味でしょ?」

この緩急。長ゼリフの使い方が上手い! そしてこれで画面もパーフェクトだとリアリティのない読者置いてけぼりの作品になってしまうところですが、抜けた絵でいい感じにバランスが取れて嫌味がなくなるのです。

「こんばんは、フォレスト君。入っていいかしら?」
「真夜中 男の部屋に上がり込むには10年早いぞ」
「明日の事もわからない時代よ。できる事は今しとかないと。今の上昇率でゲイの人達が増えたら10年後には上り込む男の部屋なんかなくなってるわよ」
「そんな理屈があるか」

「狼には気をつけて」

アレク12歳、フォレスト君20代? なのであいまいエンドも致し方なしではありますが。読者としてはこの「いいコンビ」がずっと一緒でいてくれたらって思っちゃいますよね。

こういう楽しくて面白い場面で読者を引き込みつつ、涙を絞ってくるのが遠藤先生。

あの時
差し出された手を取っていたなら
こんな心臓が裂けるような思いはしなくてよかったのかも

こんなに後悔するのに
どうして人を許す事はむずかしいんだろう

「ニューイヤー」

「マダムとミスター」の特別編、主人公グレースの過去を描いた「ニューイヤー」という読み切り。心に残っている方も多いのではないでしょうか。
「あの時」というのは入院中の母を見舞いに行った時。私立女子校の寄宿舎で暮らすグレースが母と会ったのは実に7年ぶり。話題もなく、価値観も合わないため、グレースは早々に立ち去ろうとします。
その時母が何か言いたげに伸ばした手をグレースは振り返ってハッキリと見たのに、「また来るわ」ではなく「さよなら」とだけ告げて病室を後にします。
昔母に言われた「あんたさえいなけりゃわたしはもっと幸せになってたわよ」という言葉がどうしても引っかかっていたためです。
グレースは優秀な子で、奨学金を維持するために学校の成績も良く、「破天荒だけど明るく」という評価を受けています。
そんなグレースでも母によって存在を否定された時に受けた傷だけは消し去ることが出来なかったのです。
その後母は亡くなり、グレースは後わずか半年を残して学費が賄えないため退学します。教師に堅い仕事を紹介してもらい自活するグレース。その間もグレースが取り乱す描写はなし。そして人生を前向きに捉え、たくましく生きるグレースがその年の大晦日を迎えた時……。
死んだ母からブティックを通して送られてきたドレス。
ニューイヤーのパーティのためのものでした。
自分の人生を困難だと感じ続け、現実と折り合えず、ただ一人の娘とも打ち解けられずに人生を終えた母。でも母は娘を愛していたし、娘の方も同じだった。
人は必ずいつか死ぬとわかっているのに、傷つけ合った日々は遠い過去だったのに。
グレースは後悔に苛まれ、静かに涙を流します。
……でもまあ、お互い意地っ張りなんですよね。むしろお母さんから一言謝るべきだと思うし。グレースは後悔してますが、お見舞いに行っただけでも本当は許していたことが、ちゃんと伝わっていたと思うんですね。こんなに長い間どうしても許せないこと自体が愛しているから愛されたいという気持ちの表れだと。

さあ 新しい年が始まる
新しい自分を始めよう

と、後悔せずに生きられるような強く優しい人間になりたい、とグレースが願って終わる良短編なのでした。

遠藤先生のキャラクターは逞しく生きているところがとてもいいです。

追記:今!Kindleで「狼」の文庫2巻買って読んだら、書き下ろし漫画でアレクとフォレスト君が結婚してた!ヽ(*^ω^*)ノ なんて便利な世の中!

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