表紙は付録の海街カレンダーに合わせてか、かなり明るめのライトブルーとイエローで全体的に爽やかな印象。巻頭の見開きカラーは季節に合わせて紅葉の赤で豪華にと、それぞれ楽しめて……なんて冷静を装って語っている間も、一コマ目の!射るような眼差しが!……もう萌え死にしそうですよ、39話!
あなた様は初めて恋を知った青年ですか?!ってくらいの勢いです。もう読んでて悶えます。多分主上自身も後から思い返して自分の若さに悶えるんじゃないかしら?ていうくらい、すごかったです!
以下ネタバレありの感想です。
「とりかえ・ばや」episode39 忍乱(しのぶのみだれ)
前回からの上様の突然のお渡りで、左大臣を下がらせたので二人きり。
いきなりそんな目でものも言わずに見つめられたら、沙羅だって困ってしまいますよ、上様……。頑張って座っていただくよう茵を勧めた沙羅ですが、上様はなんと座りましたよ、床に!!
心配して影で様子を伺っていた人々が慌てて、左大臣も十良子に戸を下ろすように指示します。その戸を閉めて回る音に沙羅も敏感に反応するなど、この描写で主上の行動にどんな意味があるのか、そしてそれは許容されるべきことなのがわかって面白いです。間接的なのに非常に艶っぽい。
(まさか今宵帝はそのおつもりで……?)
沙羅は顔を赤くしてうろたえるばかり。
主上は表面上はいつもと変わらぬ……いえ、いつもより険しい真剣な様子で、なぜ五節舞を舞わなかったか、まずはそれを尋ねます。
沙羅の言い逃れを許さない主上は、膝行で下がろうとした沙羅の手をとらえ引き留めます。下がってはならぬと。
重ねられた手に、今はっきりと主上のお渡りの意図を知らされた沙羅は、もうなすすべもなく、はっきりと拒否の言葉を奏します。
尚侍として東宮様を守り、上様のために国を守ること、その役目を果たすことが私の生き甲斐なのです、他のことは考えられないのですと。
何とか次の間に逃れたと思ったのも束の間、上様はふうっと息を吐くと沙羅を追ってさらに奥に踏み込んできます。これには待機していた左大臣や女房たちも慌てふためいて去って行き、結局また二人きり。
沙羅が逃げ出した後、誰もいない空間を見つめて、その後息を吐く上様が。素敵すぎる……。どれだけ真剣に思い詰めて沙羅を見、その話す言葉を聞いてるんだと……。
どうしたら思い止まって下さるのかと悩む沙羅が逆に非情に思えるほど!
どうしようもなく追い詰められた沙羅はついに、とっさに嘘をついてしまいます。
私は元から体が弱く、子を産めぬ体だと薬師に告げられました。
帝の寵を受けるにふさわしくないのです。私などより他の女子を……。
嘘に嘘を重ね続けて、半ば本心からひたすら卑下する沙羅を、見たこともないような険しい顔で見つめる主上ですが……。
ふと舞い落ちてきた紅葉の葉。それを手の平で受け止めて、沙羅の髪にそっと載せます。
「悲しく苦しかったであろうな」という言葉とともに。
静かに上様が出て行かれた後、紅葉の葉を手に取ってじっと眺める沙羅。
お優しい真心の美しい比喩的表現ですね。しかもお戻りになる時に、尚侍を責めてはならぬと左大臣にいいおかれる思慮深さ。
涙を流しながらも、これで良かったのだと思うしかない沙羅。ついてしまった嘘は貫き通すしかないということでしょうか。切ない!
(多分)初めて自分からなりふり構わず求めて拒否されて、それでも相手の苦しい事情を忖度するなんて並の男に出来ることではありません。まあ並の男じゃないんですが。心から尊敬できる慕わしい相手を拒絶しないといけない、相手を傷付けた以上に自分も傷付いている沙羅の心情も悲し過ぎる……。
この夜の一件は当然皆の知るところとなり、宮中は噂で持ちきりです。
皆が沙羅のことを「今・藤原高子さま(五節舞姫から召し上げられて皇后になった女性)」と持てはやします。
ところが……華やいだ噂の影では当人は元より浮かれる関係者が皆無なのが何とも。
関白左大臣を始め、右大将(睡蓮)はなにやら鬱屈した様子。
梅壺の女御さまは噂をご本人に確かめるようなはしたないことも出来ず、そもそもあの日以来主上のお渡りがどの女御も絶えてしまっています。
三の姫は「五節の尚侍」と異名をつけられひっきりなしに恋文が届くほど時めいているのに浮かない顔。それは東宮の風病(かぜ)がなかなか治らないためなのでは?と東宮が伏せっている場面につながります。後半に続くこの構成、上手いです、読み返して痺れます。まさかこのことがあんな萌えに繋がって行くとは……!
もとい、苦しそうな東宮さま。病というよりは重圧の心労により心身の疲労が蓄積されているのでしょう。朱雀院より内裏を退出して静養してはどうかとの申し出に、お父上に会いたい……と力なく涙ぐまれる様子に胸を打たれます。
梨壺にて尚侍同士話し合い。主上に許可を願い出るお役目、今までなら何も言わずとも自分から買って出ていた三の姫さまが今回は……。
五節舞の下稽古で、今までになく心を通わせた二人ですが、裏切ったのは沙羅の方ですよね。三の姫の失望ももっともなこと。
父も同席していた!あの夜は何もなかったと言い訳する沙羅に、
「主上を拒まれるとは あなた様は神ですか?」
強烈な言葉を返す三の姫。……でもこれが事の次第を知る人の真意ですよね。ありえないことですからね。当時の社会としても、恋に憧れる一乙女としても。
こんな状況で主上に会うなんて出来ない。このお役目を引き受けてほしい!と沙羅が重ねて率直に頼んでも、三の姫は冷静です。
二度三度までも恩を売られるつもりはない。主上を拒み抜くのがあなたの本意だと言うなら、職務上お会いするくらい何でもないことのはず。
「迷いは己で断つものかと」
恋敵を前に何という凛々しさ!苦労して来ただけあって本質を見極めないと後でもっと辛い目にあうのがわかっているんでしょうか。沙羅の親友になれそうな人なのに、嘘を付いているからこんな風にしか付き合えなくてもったいない……。
私は迷ってなどいない。
愛情を求めるつもりはないと心に決めつつも、顔も見たくないほど疎まれてしまったに違いない、そう思うと主上の前に顔を出すのがつらい沙羅です。しかしこれもお役目。清涼殿に出向いた沙羅に、東宮さまの朱雀院でのご静養の許可が出ました。
御簾越しに気配を感じるだけで、直接お声を聞くことも叶わず……けれど本来それが当たり前のことで、自分も扇で顔を隠し、女性として、東宮さまの尚侍として生きていくことを選んだのだから、迷いなど……そう自らに言い聞かせる沙羅の目に涙が。
嘘偽りだったとはいえ、輝いていた少年の日々の中で、どれだけ主上をお慕い申し上げていたことか。永遠に失ってしまったものを思い、涙を流す沙羅ですが、何と庭を挟んだ向かい側に主上の姿が!
とっさに顔を背けますが、沙羅の涙に気付いた上様、なんと……!!
裸足で!
お供の慌てふためく中、裸足で庭を突っ切り、沙羅の正面にお立ちになります!
あなたが仕事を好きなこと、やるからには全うしたいと思っていることはわかった、それは許可する。
けれど私以外の男に心を動かすことは絶対に許さない!
真っ直ぐに言いたいことだけ言うと、衣を翻し、振り返りもせず戻っていく後ろ姿にも、主上の強い決意がにじんでいます。
恐ろしいまでの熱情をぶつけられ、全身が震え沙羅は立っていることも出来ず、その場にへたり込むのでした。
……すごい情熱!みんなの前で宣言しちゃいましたよ、もー!あとで思い返してのたうち回りたくならないんでしょうか?さすが主上(^^)
沙羅の嘘と罪の意識がいい感じに二人の間の障害となり、ものすごく盛り上がってますね!ロマンチックです。来月は睡蓮の方にも何か進展があるのでしょうか?楽しみです。
歯がものすごく痛くなって、歯医者に行ったので中断して申し訳ありませんでしたm(_ _)m
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