花よりも花の如く
14巻の表紙、大輪の薔薇を抱えた憲人が素敵ですよね。表情も自信に溢れていて。
「遂に葉月と付き合い始めた憲人。そんな矢先葉月が過去にストーカー行為に……」という裏表紙のあらすじと合わせて見ると、何かドラマチックかつロマンチックなことがふたりに起こったような期待を覚えますが、中身を読むと軽く裏切られたような気持ちで、もういっそこれこそが「花花」の味!と楽しむしかない感じです。
微妙な導入ですみませんが、以下ネタバレありの感想です。
※自分でもびっくりするくらい辛口になっちゃたので、憲人が大好きな方は読まないでもらえると助かります(^_^;)すみません。
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「この三つのもの」
前巻のプラネタリウムでの月が綺麗だね的愛の言葉?から付き合い始めた憲人と葉月。(まだ周囲にはそれほどオープンにしていない段階)
葉月は五年前に、自動車事故に起因するストーカー被害に遭っていて、けれどそれは奇妙なことにある日ピタリと止んで、それきりになっていました。盗聴器を仕掛けられていたりかなり危険な状態だったのになぜ?
ピアニストにして女優、もちろん容姿端麗で非の打ち所がない、いい家のお嬢さんな葉月ですが、事故・ストーカー・両親の不和・母の家出とこの5年間かなりの苦労を重ねていて、にもかかわらず、
「自分のせいにしないと、人を憎んでしまいそうで」という潔癖さを保っているのです。まったく感情移入のしどころがないです!!
憲ちゃんはこの重い告白をほとんど感情をあらわにせず聞いています。葉月の高潔さやいじらしさに感極まって思わず抱きしめたり……はしません。
聞いてくれてありがとうと言われたら、話してくれてありがとうでしょ!折角彼女が辛い過去を全部話してくれたのに、「……」なんだ。あなた、生きてる人間とは話をしよう!って言ってなかったっけ?
問題はこのストーカーが復活した!ということなんですが。
麻生がストーカーのことを知っていて自分は知らなかったことには軽く苛立ちを感じたり。
そのくせ「自分のせいにするのも人を憎むのもどっちもやめよう」って、ストーカーと直接対決するという奇天烈な提案をして、なんだか読んでて憲人にイライラします。
最初は当然恐怖から拒否した葉月ですが、結局ふたりでストーカー探しを始めます。葉月をこの中途半端な状態から救い出したい憲人の熱意に押されたというところでしょうか。
京都まで足跡を辿ることにして、葉月と憲人が二人で行くことになりましたが、部屋は別に〜は全くの謎発言ですよね。深い仲の彼氏だからこそ、ストーカーを探し出すとか無茶苦茶言い出しても、周囲が許容しているんじゃないの??麻生さんがいい人なだけに微妙……。
とにかくここまで踏み込んだことをやってるんだから、もっと二人の気持ちが通じ合っている描写が欲しい!と読み進めると、ストーカーの正体に驚かされることになります。
いやほんと百歩譲って余命宣告で自暴自棄になったとは言え、息子の代わりにストーカーは、ない。上田さんも「ご負担にならないよう……」って言ってますが、ストーカー行為をすること自体が身体に負担でしょ!東京にいたし。
葉月が許して迎える大団円に全くカタルシスを感じないのがいっそ清々しいほど。
誰にも感情移入出来ないままこの重大事件が終わりを告げるとは。
とりあえず生きてる二人は家族公認のお付き合いとなったようですが。
「この三つのもの」を憲人は全て「ある」と言っていますが、伝わって来たのは麻生との友情くらいかな……。さすが年季が違ってそこは上手かったです。
でもほんと絵が綺麗で、コマ割りも読みにくいところはないし、すっごく丁寧なんですよね!事件と能のストーリーとの重ね合わせもよく練られているのは感じます。
ただ何となく、憲人も葉月もふたりとも素敵だなって思えなかっただけ、なんですよね……。
「休眠打破」
葉月さんが元ストーカーにすっごく親しみを感じているっぽい(;゜0゜)。
でもここまで振り切れていると、逆にそれもありかな……と思えて来ました。
上田さんと仲良くなっちゃったのもありでいいです。女同士の友情って「サイファ」以来?って感じなので、新鮮でいいですよ!憲人との場面にもいい感じに親しさが出てきましたね。
お遍路については仕事辞めたのがもったいない気がしますが、人生のそういう局面ってことで。みんなが掲示板で交流してるのが可愛い。
タイトル通りいろんなことが詰め込まれた新章スタートって感じです。
勢いに任せて色々書きましたが、ファンは脳内補完が当たり前の成田作品なので、見当外れだったと後で思う時が来るかも知れません。
そして良いことは連鎖する、そう信じる気持ちは失くしたくないですね。