まんがの名言・名場面②「バジル氏の優雅な生活」

[amazonjs asin=”4309276954″ locale=”JP” title=”坂田靖子 ふしぎの国のマンガ描き”] 河出書房新社から今春刊行された「総特集 坂田靖子」、こちらの1万6千字インタビューと、萩尾望都先生との1万8千字対談は圧巻です。年表・作品リスト・自筆の手紙公開・同人雑誌に言及とかなり充実した内容で、定価1800円の価値ありです。おすすめ。

そのインタビューの中で最も心に残った記事をご紹介します。
坂田靖子先生の作品の中で最も長いシリーズとなった「バジル氏の優雅な生活」。1979年に『LaLa』で連載が始まり、不定期に1987年まで続いた人気作。独特の絵柄で、舞台が19世紀のヴィクトリア朝時代のイギリスとあって、風俗が古びるということがないため、今も十二分に鑑賞に耐える名作であります。
主人公は社交界きってのプレイボーイにして好事家のバジル・ウォーレン卿(爵位は不明)。
その中期の作品『ウィッシュ・ボーン』は、バジル氏の「運命の女(ファムファタル)」とも言えるレディ・ビクトリアに求婚して断られるという衝撃の内容です。当時の私には全然意味がわかりませんでしたね。

「変人ビクトリア」と陰口を叩かれるほど上流階級の枠からはみ出した自由闊達な女性、レディ・ビクトリア(でも身持ちは堅いです。行動・思考が当時の女性の型に収まらないということです)。
変わり者である自分を振り回すほどの女性に初めて出会ったバジル氏は、その魅力に抗えず、しなやかな美しさに惹かれて行きます。
けれど自分の限界をきちんと見据えている聡明な彼女は、気心の知れた幼馴染みの従兄弟の求婚を受けてしまいます。
そのことを本人の口から聞かされて、僕があなたに求婚するつもりだった、と嘆くバジル氏。

「嬉しいけど……いつも誰かを愛している人は夫には不向きよ。
あなたと結婚したって浮気な夫を手に入れるだけだわ」
「……そう」
「私があなたに望んでたのはもっと別のものなの。家庭を守る夫や一時の火遊びの恋人じゃなしに。
ねぇ バジル。最上の友達でいてちょうだい。独身(ひとり)でも妻になっても、もし未亡人になってしまっても。
すべてを話せる友達が必要だわ。
夫はほとんどの女が手に入れるけど、本当の友達を持ってる人はめったにいないわ」

ビクトリアの夫チャールズは、子供の時分から彼女に憧れていたという、頭の堅い窮屈な人物です。ビクトリアはその堅実な彼が自分にだけ見せる不器用だけど率直な愛情を好ましく思っています。
バジル氏は自分の酔狂に進んで付き合ってくれるし、外見的にも内面的にも申し分のない相手ではあるけれど、夫にすれば女性として苦しみを味わうことになる。
……ここまで冷静に考えられるってすごい!しかも全てを手に入れようとしているんです!
上記のセリフの後、ビクトリアはこう続けます。

「これははっきりとした求愛【プロポーズ】よ!それとも結婚する女などはもう用はない?」

いやはやプレイボーイのプライドをくすぐる見事な逆提案です。
〈ウィッシュ・ボーン〉という賭けに負けたことのない強運の持ち主ビクトリアは、ここでももちろん勝ちを得るのでした。……

1981年の10月号に掲載されたこの作品、「LaLa」の読者アンケートで1位になったそうです。「私の漫画で1位をとったのは多分この作品だけだと思います」
読者から異常なほどの反響があって、描いた私が驚いた。こんなに反応があるなんて、みんな結婚に関してそんなにストレスを感じているのだろうか……と思ったと。

35年後の今読んでも、特に隔世の感がないというのがなんとも……。
でも昔はバジル氏に悲しい思いをさせるこの女性が苦手だったんですが、大人になった今では、正しい選択だった、さすが!と思えるようになりましたw

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