「とりかえ・ばや」episode61. 乱
幻覚の同朋、つまり同じように銀覚に心酔している者たちが扇動しているため、群衆が内裏に押し寄せて来ています。
何やら騒がしい、と沙羅も門の外を気にします。確かめて参りますと十良子が消えて沙羅はひとりに。内裏は人も手薄だし静か──と思ったところで、承香殿の前に座り込んでいる女房を見つけます。
「そなたは梅壺さまの──」
「お助け下さい、どうか……」
そう言って拝むようにする女房を促して、自分の局の中に入りますがなぜか誰もいない──?
いました。御簾の向こう側に。顔が見えない状態で床に伏した女と、袈裟を纏った男が。
(この気配──)
鞍馬山で。清涼殿で。沙羅の中で全てが繋がります。
「待っていたぞ」そう告げる酷薄な微笑に、沙羅は怒鳴り返します。
「梅壺の女御様に何をした⁈」
その声にはっと正気を取り戻した梅壺は身を起こします。
「尚侍! 上様をお逃しするのじゃっ。こやつ幻覚が我が家に火をっ……」
みなまで言い終わらない内にぱんと顔を張られて、梅壺は吹っ飛び頭を打ったことで気を失います。
「誰か…」
と呼ばわる沙羅の袿を掴んで床に押し倒し、幻覚は上に乗り上げます。
「おまえを殺す。次は帝。そして東宮…」
暴れる沙羅を押さえつけながら、首に手をかけます。
しかし沙羅の手の届く範囲に刀があります。沙羅自身が先ほど台に乗せて運んで来た、恐らく睡蓮のもの?
幻覚はついに沙羅の首に両手を回し、ぎゅっと締め付けます。
絶体絶命!
しかし今自分にかかっているのは自分の命だけではないのです! 主上と東宮──自分と片割れが愛を知ったその人たちの命、そして国家の存亡がかかっているのです!
(そんなこと…させる か)
剣を引き抜いた沙羅、ためらうことなく幻覚の背中に突き立てます。
血反吐を吐く幻覚。そこへさらにとどめとばかりに主上から賜った水晶を投げつける沙羅。苦しんで肩で息をする幻覚、
「早う…梅壺さまを連れて逃げよ」
そう叫んで走り去ろうとする沙羅の髪を幻覚が掴んだ時、かもじが切れて、幻覚は最後の力を失って倒れこみます。
女房が意識のない梅壺を引きずって逃げて行きます。
かもじが…主上の水晶は…と混乱した中で沙羅は水晶を見つけ出しますが、ガタンという物音に振り返ると、御簾の向こうに幻覚が姿勢を正して立っていて、背後には炎が……!
自らが火に巻かれることも今はもう厭わず、静かに涙を流し、この憂き世との決別の時を待つ幻覚。
沙羅はもう言葉もなく、睡蓮が置いていった直衣を抱きかかえ、生きるためにその場を去ります。
承香殿が炎に包まれています。
みなが慌てふためく中、一直線に走って来たのは、
「右大将さま!」
「皆を逃げさせるように!」
「はいっ右大将さま」
「主上はどちらに?」
走り去る後ろ姿に、右大将がなぜここに? と疑問を持つ者もいますが、内裏は大変な騒ぎです。
主上が情報を集めて対処しようとしているその場に右大将が駆け込んで来ます。
「上様はご無事か?」
なんの疑問も抱かず「右大…」と振り返った主上、そこにいたのは──
もちろん沙羅ですね(^^) あ〜こんな形で過去と向き合うことになるのか〜とりあえず沙羅の忠誠心はめちゃくちゃ伝わりそうですね!
この騒乱が収まれば、あとは恋の成就だけ!
10月号に続く