「海街diary」連載10周年記念企画 メモリアル座談会について

2ヶ月も前の「フラワーズ」8月号の記事ですが、備忘録として残したいと思います。コミックスに収録されるかもですが。

2006年8月号から連載を開始した本作、2016年8月号の第30話で切りよく10周年!おめでとうございます(^ ^)
歴代の担当氏3名(佐藤・真島・彦坂 敬称略)との座談会となってます。

「ラヴァーズ・キス」には元々続編?の構想があったんですね。3話のオムニバス形式で、ものすごくきれいに終わっている、短編の見本のような作品なのでちょっと驚きです。朋章を中心にまた鎌倉の話を描きたい、と。
しかし実際にネームを描いてみると、朋章が主役だとキツイし暗いし話が進まない……苦し紛れに女性を主人公にしてみると、佳乃のキャラクターが決まってきて、60ページのネームが2〜3日で出来てしまった。
さすがよっちゃん!自分で勝手に動いちゃいそうなキャラですもんね。
そして全ての構想が出来たというのがいいです。

そしてすずのキャラクター作りには、ロシアの児童文学「町から来た少女」が頭の隅にあった、と。うわ…この作品、懐かしい!大好きでした。ペチカの風呂に入る、というのが当時ちんぷんかんぷんで、意味が分からなかったことを思い出します。
一人ぼっちの少女が大家族に受け入れられて、本当の家族になっていくお話。ググってあらすじ読んだだけで泣ける(T_T)

「仮想鎌倉を舞台にした一種の群像劇」なので登場人物が多い。一人の人間に焦点を当てすぎないように腐心している……あ、やっぱりそうなんですね、難しいですよね。
どの話にもちゃんと四姉妹を絡ませるが、それがすずだと一番いい。担当さんは「大人の女性がいるから話がふくらむっていう部分はある」と言ってますが、人生に対してニュートラルなすずが立ち会うのが物語的に一番収まりがいいってことですかね。

そしてチカがアフロを止めたのは、「手入れしやすい髪にしたんです。妊娠してるから」と先生。物語の変化を象徴するだけではなかったんですね……!キャラが生きている、人間が描けているってこういうことなんだなーと、ただただ感心。

昔から「かっこいい男の人」を描くことに定評のある吉田先生。しかし言われ過ぎで食傷気味でもあった。その反動ではないですが、吉田作品にしては珍しく女の人だらけ、男はおっさんもしくは中学生しかいない作品に。若い二枚目を出すと、どうしても話がそちらに偏ってしまう。

読者層の幅が広く、少女マンガと銘打っている割におじさんが電車で読んでいたりする。1話目のすずには担当さんたちも泣かされた。
時間と空間の描き方が絶妙で、同じ場所で同じものを見ている時も、各人の経験により事象の受け取り方の深度が違うことが台詞だけに頼らず絵で表現されている。
また雷がなったり、空を見上げている時も、各人が違う場所でそれぞれの人生を生きている描き方がいい。と、佐藤元フラワーズ編集長の弁。お説ごもっとも!

そして世間でも大きくピックアップされている「母と娘」の関係。
これは結構大変。
同性だから見る目が厳しくなる。
私も母が少し重くて大学(武蔵野美術大学)卒業と同時に家を出た、距離をとったのは正しかったと思う。
是枝(映画監督)さんは親に捨てられた子供の話ばかり描いてると言ってたけど、それは同時に親を捨てた子供の話でもある。私の「海街」もそうだし、是枝さんの「海街」もそう。←吉田先生の作品には自立した大人がたくさん出て来て、骨があるというか筋が通っているというか、ドライでかっこいいと感じる部分は人間関係の痛みや苦しみから来ているんですね……深いなぁ。
でも「食」にはやはり親の影響が大きいとのこと。

そして各話のタイトルは先生が付けてるんですね!毎回苦労してるけど、一話の「蝉時雨のやむ頃」はすんなり決まって、その後でシリーズタイトル(海街)を考えたそうです。
「遠雷」が硬すぎてしっくりこないから、悩みに悩んで「遠い雷鳴」に決めた、とかは面白いですね。確かに女性が主人公だから一文字でも仮名が入っている方が柔らかい印象ではありますね。
「海街diary」は「街」が主人公でもあるから、もうしょうがないこれでいい、みたいな、上手いこと決まった感がなくて……ってこういう話を聞けるのって楽しいです。創り手側の苦しみ。
今まで唯一決まったなと思ったのが「河よりも……」というのにも納得。あれは素晴らしいタイトルですもんね(^ ^)

当初の構想では4・5巻だった「海街」。対して「ラヴァーズ・キス」は全てが構想の通り。最後までプロットが出来ていて、もちろんタイトルも。「それぞれのカップルの3パターンのキスの話」。一つの事柄を視点を変えて、スタイリッシュにかっこ良く。そう、当時本当にかっこよくきれいにまとまっている!と感動しました。絵もすごくきれいで、完成されてました。

四姉妹のお父さん。物語の起点なのに、顔も曖昧なら名前もない(!)。
優しくてダメな人。無責任な優しさ。このことは作中でもきちんと語られてました。
顔があいまいと言えば「アライさん」。彼女はもう出しにくい、カリスマになっちゃたから(笑)と先生。
確かに!桜と患者さんとアライさんのエピソード、感動しましたもん!ぶっちゃけ途中ちょっと飽きていた本作に引き戻されましたから。幸の視野が広がるという意味でも屈指の名エピソードでした。

そして驚愕、背景も先生はご自分で描かれているんですね!それも楽しんで描かれているとはすごいです。

最後に「次の巻で終わるかあやしくなってきた」ということですが、きりよく10巻までいっても全然いいんじゃないんですかね?すずの最後のエピソード……そこまでじっくり描いて欲しいです!

裏話満載で楽しかった!同業者ではなく担当さんとの対談、っていうのが苦労や高揚感がダイレクトに伝わってきて面白い。萩尾先生でも読んでみたいなあ……。

最新情報をチェックしよう!