まんがの名言・名場面③ 「君を待つ千夜」

[amazonjs asin=”4253133541″ locale=”JP” title=”君を待つ千夜 (キャンドルコミックス)”] こんにちは。
こちら、単に私の好きな古い漫画を紹介するカテゴリーです。
今回は古くてかなりマイナー。秋田書店のCandleコミックス。多分昔「Candle」っていう少女漫画雑誌があったんでしょう。読んだことはおろか見たこともないんですが……。
作者の笈川かおるさんは「ぶ〜け」で描いていて、それなりにコミックスも出ていたのでご存知の方もいらっしゃると思います。絵も可愛くて、話にちょっとひねりがあって、印象的なセリフが好きだったんです。

コミックス見返しのあらすじによるとーー
「恋する想いは、はるかな距離も、時さえもとびこえていくものなのか__?自らの意志に反して人口睡眠(コールドスリープ)で眠らされたつかさ。彼女が10年ぶりに目覚めた時…⁈

「ユーダってひどいやつなの
だけど変な時だけ 呼びもしないのに
地球の反対側からでも飛んでくるの」

コールドスリープもの! 昔はロマンチックSFというジャンルがありましたからね。
舞台は21世紀後半の北米大陸。
10年後の世界で目覚めた、人口睡眠第一号の「つかさ」。彼女は無事生還したことで時の人となっています。元々モデルをしていた若い美人です。
しかし彼女は自らの意志で眠りについたのではなく、結婚式を明日に控えて、結婚相手の「ユーダ」という悪い男によって、いわば人体実験に売られてしまったわけです。天涯孤独の彼女にとって、唯一頼れるのが親代わりのこのユーダだったのに、手ひどい裏切りを受けたわけです。
10年後の世界では昔の知り合いはみな大人になってしまっていて、つかさは孤独です。けれど彼女は持ち前の生命力で未来に順応していきます。その支えとなったのが、通訳兼世話係の「クロゥ」。才能あふれる18歳のイケメンです。
つかさはユーダに利用されてサギの片棒を担いだり、ハイスクールに通っていても、ちょっと男の子を好きになっただけで、ヤクザなユーダがその相手の腕をへし折ってしまったり。今でいうヤンデレ?ですね。
ユーダ以外を愛することが出来ないように仕向けられていたと言えます。
でも少女漫画なので、16になったつかさにめでたくユーダがプロポーズ。これからは家族として真っ当な愛を育めると大喜びしたつかさは、目覚めたら10年後の世界にいたわけです。
つかさにとってユーダとの愛はつい昨日のこと。クロゥに付き添われて、二人が暮らしていた家にユーダを探しに行きますが、そこはすでに廃屋となっていました。

ここで挟まれるのがまさかの菅原道真の「飛梅」伝説。「東風ふかば にほひをこせよ 梅の花 主人なしとて 春を忘るな」

このおとぎ話を好んだユーダは庭木にわざわざ日本から梅を取り寄せ、つかさにその由来を話して聞かせました。
「わたしだってついて行くわよ、ユーダ」と自分を信じるかわいい恋人に。
しかし二人がこんな廃墟に何をしに来たのかと訝しんだタクシー運転手から、ユーダは死んだという情報が。当時から重い病気で、女を売って儲けた金で何度も手術したがダメだったようだ、バチが当たったんだね……と。
地球の反対側からでも飛んでくるユーダも、土の下からは来られない。ユーダの呪縛から自由に、そして一人ぼっちになったつかさにクロゥがプロポーズ。
そう、結婚を控えた男女がまた別れ別れになり、前回とは違って愛を貫き通せるのか?という展開が待ち構えています。
公務員のクロゥは火星に半年の出張。その間地球では頻繁に地震が起こります。そしてつかさの周りを件のタクシー運転手がなぜかウロついている……いやな予感が一気に巨大地震で収束します。
地下シェルターに逃れようとしたつかさの危機を救ったのはタクシー運転手。
ユーダでしょ? こんな時いきなり出てくるのはユーダしかいない。
髪を染め、顔を整形しても、つかさはユーダに気付きます。
信じれば絶対にそうなるーー梅の木が一夜で主人の元へ飛んで行くように、病魔に侵されながらも、もう一度だけ生きてつかさと会えるかも知れないと信じて十年を待つことに費やしたユーダがこの目の前の男なんだと。
「あばよ、おネエちゃん。それとも俺と来るかい?」
つかさが選んだのはクロゥと生きることでした。
この後は人口冬眠センターで眠っているつかさをクロゥが探しながら長い長い時間を待つーーというもので、それがタイトルに表されています。シリーズ物で他に二作待ち続けるクロゥが描かれてます。二人が再び巡り会うまで読みたい!という読者が大半だったと思うんですが、それは実現しないままとなっています。かといって未完というわけではなく、ちゃんと読み切り作品として完璧に完結しています。

つかさがユーダを選ばないところが、味わい深い作品なのです。つかさはすごくバイタリティがあって人間として賢い女の子です。
ユーダはつかさを愛していながら、その愛を信じていないせいか、つかさを縛り付けて孤独を強いていました。
ユーダが本当にひどい男なのです。どんな手段を使ってもつかさを誰にも渡したくないというわがままで自分勝手な男なのに、最後の最後は幸せを願ってつかさをクロゥのところへ行かせてしまうのです。
ひとこと一緒に来てくれと言ってくれたら、つかさはついて行ったかも知れないのに。
「バカヤロー! くたばっちまえ。ちくしょー」
ユーダのわかりにくい愛を罵倒して、つかさは前を向きます。
ユーダの最後の裏切りで自分が一番辛い時に側にいてくれたクロゥを裏切ることはできないと。今度こそ幸せになるために。

梅の季節になると思い出す素敵な作品です。

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